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メンターについてゆく

カレーにラーメン、蕎麦やスウィーツ
それぞれのメンター(師匠)たち。
その深い愛情と探究心ゆえ、あらゆる名店を
食べ歩き、ついには偏愛の書までを上梓する
彼らの「もっとも熱いヒトサラ」とは?
頭もお腹も満たされる、いいとこどりの贅沢時間です。

メンターについてゆく08 / TEXT:小林のびる PHOTO:嗜好品LAB ILLUST:藤田めぐみ / 2015.09.30 とみさわ昭仁さんと上尾市愛宕「石焼らーめん 火山」の「完熟味噌らーめん」

これまで誰も語らなかった「モノを集めることの本質」にとことん向き合い、その道を極めた者だけが知りうる真理を詰め込んだ怪書、『無限の本棚:手放す時代の蒐集論』。その帯には「コレクションの鬼になれ。ぼくが『蒐集』の字を使うのは、文字に鬼が入っているからだ!」とある。
生まれながらにして、重度のコレクター気質。これまでにも、怪獣消しゴム、ミニカー、ジッポ・ライター、レコード、古本などなど、興味のあるモノは手当たり次第にコレクションの対象としてきたとみさわ昭仁さん。蒐集道の極北を歩み続けたこの半世紀にて、ついに辿り着いた「エア・コレクション」の境地とは? 自らの古本屋「マニタ書房」を開店し手に入れた「無限の本棚」とは? そしてまた、こんな本を上梓してしまう「究極の趣味人」であるからして、そのコレクト欲は「飲食」にも及ぶわけであり、今回は「マグマ舌」というテーマのもと、埼玉県の「石焼らーめん 火山」にて待ち合わせた。ここはとみさわさんの知る限り「もっとも熱いヒトサラ」を出すというラーメン界の突然変異であって──。

高崎線に乗り込み本日の舞台に到着。静かに噴火のときを待つ埼玉県中東部の「活火山」を見上げるとみさわ昭仁さん。

人がモノを集めるとはどういうことなのか。その真理を解き明かしたかった。かっこよく言えばね(笑)

『無限の本棚:手放す時代の蒐集論』(アスペクト刊)

 ラーメンを頼む前に、ビールでも飲みながら、まずは『無限の本棚~』の話をしますね。その前置きがないと、「なぜ〈火山〉なのか」もわかってもらえないと思うんで。
 僕は昔から、コレクションに関する本や、コレクターが書いた本というのが大好きで、見つけたらかたっぱしから買うようにしていたんですけど、大抵そこにはグッズの歴史やバリエーションの紹介、または自分のコレクション自慢ばかりが載っていて、あまり面白いとは思えなかったんです。僕はそれよりも、「モノを集めることの本質」が書いてある本に出会いたかったんですね。でも、僕の知る限り、誰もそこには取り組んでいなかった。……僕はあるとき思ったんですよ。「自分がモノを集める理由は〈物欲〉ではないんじゃないか?」って。それまでは長いこと「収集欲=物欲」だと思い込んでいたんだけど、そこにはもうひとつの欲があることに気づいてしまった。それは「整理欲」。混沌としているものに秩序を与えたいという欲望です。たとえばトレーディング・カードって、バラバラに存在しているものを部屋に持ち帰って、順番にソートしてゆくところに喜びがあるわけでしょ? そこに加えて、僕のコレクションには「まずチェックリストをつくる」という喜びがあった。つまりはカードそのものを眺めるよりも、リストを埋めることの快感のほうが大きいということに気づいてしまったんです。もちろん「物欲」と「整理欲」、そこに優劣があるわけではなくて、純粋にモノが好きで集めている人もいれば、「整理したい」っていう欲望が勝っている人もいる。単に僕の場合は後者だったということなんですね。

 いきなり我々のような凡人には理解の難しいフェーズに突入しているような気もするが、そう語るとみさわさんの目は、疑うことを知らない子どものようにキラキラと輝くばかりで。

(笑)いや、僕だって最初は単なる物欲からモノを集めてましたよ。原体験となったのは日本酒の一升瓶の「酒ブタ」で、これを集めては友だちと交換するのが楽しかった。怪獣消しゴムやミニカー、切手などにもハマりました。とくに大リーグ・カードは夢中で集めて、『底抜け! 大リーグカードの世界』(彩流社刊)という本まで出したんですが、あれはさっき話した「コレクション自慢」の本なんですよね。まだ自分のことを全然理解できていなかった頃の仕事であって、「僕は野球や選手のことが好きなんだ」と思い込んでたわけです。ところがあるとき我に返った。もともと野球が好きだったわけじゃないよな…… 集めがいがありそうなジャンルだから、自分を洗脳してるだけなんじゃないか?…… ということはこのカード、べつに真っ白でもいいのか!って(笑)。たとえば真っ白なカードに番号だけが振ってあって、それがシャッフルされて日本中に散らばっていると考てみる。うん、それでも集めるな!と(笑)。そのあたりからはなんとなく、コレクションの真理や心理が見えてきたわけです。そこを突き詰めていくことで辿り着いたのが、「エア・コレクション」という概念。チェックリストをつくっては埋めていくという行為が可能な対象であれば、もはや現物はなくてもいいんじゃないかっていう。
 チェックリストの対象は「モノ」だけじゃなく、あらゆるものに及んでますね。たとえば古本チェーンの「ブックオフ」。僕が通うのは、もちろん本を買うためなんですけど、地方なんかに行くときに、ついでに寄ったりしやすいように全店舗のリストをつくってみたら、またしても「ぜんぶ廻りたい!」となってしまった(笑)。リストを塗り潰していく作業が楽しくなっちゃったわけです。

全国「ブックオフ」巡りと「マニタ書房」の開店。そこに導き出されたひとつの概念「無限の本棚」とは?

 現在とみさわさんは、神田で自身の古本屋「マニタ書房」を経営している。一般的な値づけ相場はまったく無視し、自分が魅力的だと感じた本に、自分ならではの価値を与えたものだけを陳列する、いわば趣味人の理想郷。仕入先のメインは「ブックオフ」であり、とみさわさんは「日本一ブックオフに行く男」としてもその名を馳せているのだ。

「ホームレス」「埋蔵金」「古本の本」など独自のジャンル分けがなされたマニタ書房の本棚には、とみさわさん自身の人生哲学が色濃く反映されている。(写真:とみさわ昭仁)

 仕入れならば、池袋や秋葉原の大型店だけを廻っていれば十分なわけで、わざわざ交通費を使って北海道まで飛ばなくてもいい(笑)。でも行っちゃうんだよねぇ。もはや仕事じゃなくてただの趣味であり、それは僕にとっての「スタンプラリー」なわけです。ただ、僕はあらかじめ用意されたスタンプラリーを楽しいとは全然思えなくて、自分自身でテーマを決めて、スタンプがわりにリストを塗り潰していくことにこそ喜びを感じるんですよ。
『無限の本棚』のアイデアはその先にありました。古本屋の仕事というのは、自分で仕入れた本を販売すること、つまりはどんどん「手放していくこと」ですよね。ぼくは古本屋に行って珍本を探すこと自体が趣味だったから、「これなら無限に本が集め続けられるぞ!」ということになる。そう、マニタ書房の本棚こそが、無限の本棚なんです。だからこの本では、そこから逆算することで、自分が経験した、「あらゆるコレクションについてまわる〈有限性〉の辛さ」を積み上げていったわけです。このテーマだと、若い頃に漫画をコツコツ集めていて、2階の部屋の床が抜けそうになって親父に怒られたとか、そういうエピソードが活きてくるでしょ? 最後に手に入れるのが「絶対に満杯にならない本棚」なわけだから(笑)。
 あと僕、コレクターのくせに人と競争することが苦手なんです。何かを集めていて、自分よりすごい人と出会ったとするでしょ? そうなると、「頑張って追い抜いてやる!」ではなくて、「あ、これは自分の進む道じゃないや」って、ポイッとそれまでのコレクションを手放してしまうんです。だからもし、僕よりたくさんブックオフに行っている人に出会ったら、その道はすんなりと諦めます。

小気味よい食感と梅の酸味が食欲の着火剤となる「梅ザーサイ」
「石焼らーめん火山」の発祥は栃木県宇都宮市ゆえ、野菜の甘みも豊かな大ぶりの餃子は、驚くほどにハイレベル。

 ゆっくりとビールを飲みながら、とみさわさんの逸話に笑っては頷く取材陣。趣味を極めた大人の語り口は、晩夏のテーブルを満たす最高のツマミ。もう少し「エア・コレクション」のことをお訊きしたい。

 近年ハマっているのは「夏の靴底」。たまに道端に革靴のカカトの部分だけが剥がれて落ちていたりするでしょ? いつからか「あ、またあった」と意識するようになったんだけど、そんなものを拾い集めるなんて絶対に嫌ですよね(笑)。そこで「写真でいいじゃん!」と。つまりはこれもエア・コレクションなわけです。暑さで接着剤が溶けやすくなってるのか、夏によく落ちているので「夏の靴底」と名づけた。くだらないよね(笑)。
 ほかにも自分が「これは!?」と感じたものは、ひとまず集めておくんです。その代表が「プライベート・テレカ」ですね。まだ携帯電話が普及していなかった頃、電話ボックスには「使用済テレカ入れ」というのがあったので、そこから無作為に集めてみたわけです。それがある程度たまったところで見返してみると、突然テーマが立ち上がってきた。たとえばゴルフでホールインワンを出した人が個人的に配ったものとか、何かの発表会の記念品とか、そういう、企業がつくったものではない、すごく味のあるデザインのものが発掘されるわけ。「使い終わったからって記念品を捨てるなよ!」って思うんだけど(笑)、それがいつしか「プライベート・テレカ収集」という1ジャンルに成長していったわけです。
 ……じゃあ、そろそろラーメンをオーダーしましょうか。

我々の注文を受け、「火山」の深部はさらに温度を上げてゆく。
「火山が噴火します! 避難してください!」。食べ方のガイドにしてマグマのハネを防ぐシールドが届き、周囲に漂い始める謎の緊張感。

稀代の「マグマ舌」をも唸らせる、98.8℃のラーメンに悶絶!

 どんなモノや事象に対しても「コレクションの対象」としての可能性を探ってしまうというとみさわさんは、当然ながら、食べることや飲むことにも並々ならぬこだわりを持つ。飲食業界も例に漏れず、氏のコレクター魂をくすぐるお宝の宝庫なのだ。

 とにかく僕は熱い食べ物が大好き。好きな味覚の順位を挙げていくと、酸っぱいよりも甘い、それよりも苦い、辛い、しょっぱいの順に好きで、そのすべてを超越したところに「熱い」があるような男なんですよ。僕はこれを「マグマ舌」と呼んでるんだけど、そういうふうにテーマをひとつ設けてしまえば、好きなものを食べつつ、エア・コレクションもできてしまうわけです。でもこの「熱い食べ物」というのは、実はリスト化することが難しい、すごく特殊なコレクションなんですね。「辛い食べ物」であれば、ネットでいくらでも情報が出てくるし、「激辛ランキング」みたいな記事も多いですよね。ところが「熱い食べ物ランキング」は見たことがないし、なにより「熱さ」に価値を見出している人というのも非常に少ない(笑)。

 自分のマグマ舌を自覚したのは、20歳手前くらいの頃だったかな。最初に就職した小さな下請けの製図屋で、バイクの図面なんかを描いていて、昼はみんなで弁当を選んで配達してもらっていたんですけど、味噌汁だけはでっかい寸胴で届くので、それを温めてお椀によそう係というのは従業員全員の交代制だった。僕は自分の担当の週がうれしくてしょうがなくてね。それは、ふつうに温めたものを同僚たちによそったあと、自分のぶんだけはグラッグラに煮立たせて、まだボコボコいってるようなものをすするのが大好きだったから(笑)。しかもそこの味噌汁、豚肉の切れっぱしが入った豚汁のできそこないみたいなタイプで、脂っ気が多いから余計に熱い。慌ててすすると口の中の皮がペロッと剥けちゃったりするんだけど、それも含めて大好きだった(笑)。ラーメンが好きになっていったのも、そのあたりからですね。麺類って基本的に熱いでしょ?
 永福町にある「大勝軒」の味というのも、ひとつの転機になっています。その頃は下北沢に勤めていて──そこは「ポケットモンスター」などの家庭用ゲームソフトをつくる「ゲームフリーク」という会社でした──近かったので食べてみたんです。あそこのラーメンって、洗面器みたいに大きな丼に、デフォルトで麺が2玉入ってて、スープの表面をびっしりとラードが覆っている。完全に熱を閉じ込めてるわけです。初めて食べたときは「こんなににも熱いラーメンがあったのか!」って、心の底から感動しましたね(笑)。
 よく、「とみさわさんって熱さをまったく感じないんですか?」って誤解されるんだけど、僕も人間ですからね、熱いとも感じるし、火傷もします。ただ、そこがいいんです(笑)!

 そんなとみわさわさんが「今もっとも熱いラーメン」だと太鼓判を押すのが、今回の「石焼らーめん火山」というわけだ。

「石焼らーめん火山」のラーメンは客席にて完成する。じっくりと時間をかけ、300度にまで熱された特注の石鍋に煮えたぎるスープを注ぎ込むと、ジャーッ!という轟音とともに立ち上がる湯気。恐るおそる覗き込めば、噴煙を上げる活火山が飛び込んでくる!
創業当時からの人気メニュー「醤油らーめん」
たっぷりの練りゴマと肉味噌の食べ応えがうれしい「担々麺」。山椒のシビれる辛さも加わり、熱×辛のコラボレーションが刺激的!
 ここのラーメンはね、熱さもさることながら、しっかりと旨いのがまたすごいんですよ。野菜がたっぷり食べられるのもいいし、味噌だって麺だってこの温度に合わせて特注したもの。それを、最後の一滴まで熱々のまま食べられるんだから、もうたまらないです。

とみさわさんの注文は「完熟味噌らーめん」

 ここの存在を知ったのはおととしだったかな。聞いたら13年も前からあったらしくて、不覚ですよ。さっきも言ったように、熱いものの情報ってなかなか手に入らないからね。ちなみに「熱いもの好き」にとっては「辛さ」というのは避けて通れない要素で──辛いものって実際の温度より熱く感じるでしょ?──最初はこの店でも、唐辛子や花山椒を使った「雷味噌らーめん」というのを食べてみたんです。初めてのラーメン屋では、基本辛いものを頼むようにしていて、それがクセになっていたので。だけど実際に食べてみたら、「こんなに熱いなら、辛味なんかでごまかしてる場合じゃない!」と思って、すぐに再訪。今度はふつうの「醤油らーめん」を食べたてみたんです。「あ、やっぱりこっちだった! ようやく見つけた!」と震えましたね(笑)。

ここのラーメンの温度は……98.8℃!? 飲食物としての限界値を見た!

 熱いもの好きとして、自分でも一線を超えてしまっているなと思うのが、この温度計ですね。コレクター気質もあって、どうしても温度を測って記録しておきたくなってしまう。これでもいろいろ気を遣ってるんですよ。たとえば運ばれてきたラーメンに、一般的な料理用温度計をチャポンと浸すのは失礼だし、 「お前、どこの店のスパイだ!」ということになるでしょ(笑)? だから、なるべく小さくて目立たない非接触型のものを使って、これを手の中に隠しつつ計っています。だけど、通された席が店主の真ん前のカウンターだったりすると、さすがに計れない。悪いことではないと思うんだけど、「なんだか得体のしれない奴がいる」って、お店の人も気分がよくないでしょう。「せっかくこんなに熱いのに温度が計れないなんて!」と悔しい思いをすることも多々ありますよ(笑)。

「早く味噌を溶いちゃわないと温度が下がる~」
眼鏡を曇らせながらも至福の表情!

 「コショーそば」に「ニュータンタンメン」「珍麺コレクション」の獣道は長く果てしなく……

 いやはや「熱い食べ物」だけでここまで熱く語れる人がいるだろうか? 自分だけのルールやハードルを設け、男の人生を謳歌するとみさわさんには、真の趣味人の威光を見せつけられた。となればやはり、ほかの「飲食コレクション」も気になるわけで。

取り分け用の小皿などもちろん使わない! とみさわさんの顔はみるみるうちに赤みを帯びて……。 「実は汗っかきなんですよ」 携帯に保存された珍麺リストの一部を見せてもらう。

 最近夢中になっているのは「日本全国珍麺紀行」ですね。これはラーメンに限らず蕎麦やうどんも含むんですが、全国の変わった麺類を食べ歩くことで、いつか図鑑にしたいと思ってるんです。もちろん「珍麺」にも自分なりの定義があります。まずは「その地域の食として定着したもの」であること。だって、どっかの変わり者のオヤジが「うちの名物は〈オリジナル豚キムチ納豆ラーメン〉だ!」みたいに遊んだものなんて、無数にあるでしょ? その反面、青森の「牛乳カレーラーメン」というのは、確かに変わってるけど意外と定着してるんですよ。ほかにも「黒石つゆやきそば」とか「勝浦タンタン麺」とか、いわゆるその土地のソウルフード的な麺はいろいろあって、こういうのはチェックリストの対象になります。札幌なら「味噌」、函館なら「塩」みたいな北海道4大ラーメンだって、ひとつひとつは珍麺とはいえないけど、地域性と並べて検証してみると、俄然コレクションとして魅力的になるし、そうやって北から押さえていくと、最終的には「沖縄そば」がゴールになるのかなって。

 僕のコレクションにとって、そういうルール設定はとても大切なものですが、コレクションの基盤にあるのは「自分が楽しみたい」という気持ち。だから、たまの例外というのにも柔軟に対応しています。たとえば品川の駅前に「港南」という昔ながらの裏路地が残っているんですが、そこに「天華」という中華屋さんがあったんです。そこで出していたのが、ちょっとトロミのあるタンメンに、「これってスープの上でフタがとれちゃったんじゃないの?」っていうぐらいにドサーッと胡椒がかかった「コショーそば」。これが旨くてねぇ。存在を知ってから何度か食べに通っていたんですけど、親父さんが身体を悪くされたみたいで、ちょっと前に店を畳んでしまった。ファンはみんなガッカリしたんだけど、そこの息子さんが新浦安にある「王冠」という四川料理屋で働いていて、「そんなに愛されていたなら」と、父親の味を受け継いだ「コショーそば」をその店でも出すようになったんですよ! 僕は慌てて食べにいって、うん、これもやっぱり旨かった。「コショーそば」の場合はいわゆる地域に根づいたソウルフードではないですけど、確実に多くの人にとっての思い出の味なわけで、こういったものも僕のコレクションに加えないわけにはいかないですね。

「石焼らーめん火山」ならではのサービスである、凍らせたおしぼりとデザートの杏仁豆腐。登頂後の甘美なご褒美だ。

 あとは「ニュータンタンメン」。これはそれだけで独立したコレクションになっているほどです。もうずいぶん昔の話だけど、代沢に「南ばん亭」という中華屋があって、鶏がらスープにニンニクと炒めた挽き肉がたっぷり、それを玉子でとじて、韓国唐辛子で真っ赤にした「なんばん麺」という大好きなメニューがあったんです。そのいっぽうで、友人がネットで「元祖ニュータンタンメン本舗」の「ニュータンタンメン」を、「これが俺のソウルフードだ」と紹介していた。これは神奈川県、とくに川崎市内のご当地麺らしいんだけど、さっそく食べてみたら、「え? これって〈なんばん麺〉じゃん!」と驚いた。つまり「南ばん亭」は「ニュータンタンメン」のインスパイア店だったわけです(笑)。そこからさらに調べてみたら、ほかにも「元祖ニュータンタンメン本舗」とそっくりのラーメンを出す店がたくさんあって、川崎市内の中華屋さんで担々麺を頼むと、かなりの確率でそういうラーメンが出てくるということがわかった。興奮しましたね。もちろんすべての支店に行ってみたいし、インスパイア系も網羅したくなって、すぐにリストをつくり始めました。もう100店舗近くあるかな。
 あと面白いのは、宮崎県によく似たラーメンを見つけたときのこと。まるで川崎から飛び火したかのように、その一帯に「ニュータンタンメン」そっくりのラーメンを出す店が密集していた。ところが最大の違いは、デフォルトの麺がコンニャク麺なんですね。これはインスパイアではなくて、同時発生的に生まれたものなんじゃないかと思って、調べているところなんです。

今回は大火傷もなく無事下山。大満足!

「珍麺」ひとつをとってみても、その歴史やディティールを洗い出し、自分だけの地図を描き続けるとみさわさん。しかも「飲食コレクション」に関しては、実際に「食べる」という行為/喜びが伴うため、そこには特別な満足度があると語る。

 食事って誰もがすることですよね。でも、基本的にそのほかのモノ集めというのは、生きていく上では必要のないものにお金を出すことなんです。僕はどっちも好きだけど、どうせ食べるのであれば、その時間もコレクションにしたい。今はそれができていることに対して、すごくうれしく思うんですよ。
 僕、これからの人生は1分1秒をすべて自分の好きなことに費やしたいんです。さっきも話に出たけど、僕は幸運にも「ポケットモンスター」というゲームの立ち上げに携われて、日本、いや、世界中の子どもたちに楽しさを届けるという仕事ができた。だから「ゲームフリーク」を退社したときは、「よし、これからは儲からなくてもいいから、いっさい人の役に立たないことだけして暮らしていこう!」と決めたんです。
 だから僕、メチャクチャ忙しいんですよ。まず本業である古本屋の仕入れのために全国のブックオフを廻って、珍本を探すと同時に、外観の写真を押さえてチェックリストを塗り潰す。移動中はどこかに靴底が落ちていないかと地面を見ているし(笑)、その土地の珍麺を食べながら、ほかにもいいコレクション対象がないかと常に気を払う。いや~、コレクターは本当に苦労が多い! コレクターは本当に楽しい!(笑)。

取材からの帰り道、まるでそこに仕込まれていたかのように「夏の靴底」を発見! 「全体の靴底なんて珍しいよ! どうしてこういう剥がれ方したんだろうね?(笑)」

石焼らーめん 火山(上尾うんどう公園店) 埼玉県上尾市愛宕2-19-15
048-770-0088
営業時間:11:00~23:00/
11:30~24:00(金・土・日曜日/祝日の前日)
定休日:なし

とみさわ昭仁 Akihito Tomisawa
1961年東京生まれ。ライター、コレクター、特殊古書店『マニタ書房』店主。「日本一ブックオフに行く男」を自称する。著書は『底抜け! 大リーグカードの世界─「珍プレイ&超絶プレイ」コレクション』(彩流社)、『人喰い映画祭【満腹版】~腹八分目じゃ物足りない人のためのモンスター映画ガイド~』(辰巳出版)、『無限の本棚:手放す時代の蒐集論』(アスペクト)などがある。

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