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サラーム海上のマジカル・スパイシー・ツアー

現地に赴きその興奮を丸ごと持ち帰る中東料理研究家、
サラーム海上の超本格テマヒマ料理教室!
たまの休日を潰してでも挑戦してみたい、
エキゾな舌の半日紀行。鼻を殴るスパイスが、
キッチン発のショート・トリップへといざないます!

マジカル・スパイシー・ツアー06 / TEXT:サラーム海上 PHOTO:嗜好品LAB ILLUST:鈴木哲哉 / 2016.04.28 桜の下の頂上決戦!「ファラフェル・フル・ローデッド」

悪友たちとの花見に向け、いざ調理開始!

 たまの休日、あえて1日がかりで超ド級の本格エスニック料理をつくるこの連載。第6回目は中東の豆コロッケ「ファラフェル」のサンドイッチだ。「なんだよ、簡単そうじゃん!」なんて言わないでくれよ。今回はファラフェルだけでなく、つけあわせのサラダ4種やタヒーニソース、さらにはピタパンまでをすべて手づくりするのだ! もちろん今回もプロ用の設備などを借りることなく、あくまで自宅のキッチンで、だ。名づけて「ファラフェル・フル・ローデッド」!! R U Ready?

 まずはファラフェルの説明を。近年、日本でも人気が出始めたこの料理。乾燥ひよこ豆や空豆をひと晩、水に浸け、それをスパイスやハーブを混ぜて擦り潰し、丸めて油で揚げたコロッケである。衣をつけずに揚げるため、表面は焦げ茶色、中はパセリや香菜も鮮やかな薄緑色に仕上がる。揚げたてのファラフェルをお好みの野菜のサラダやマリネとともにピタパンに挟みこんだファラフェル・サンドイッチは、レバノンやエジプト、ヨルダン、シリア、イスラエルなどの中東諸国ではケバブのサンドイッチと並んで人気の高いファストフードだ。欧米でもベジタリアン向けのそれとされている。ちなみにパリやアムステルダムの繁華街で売られている具たっぷりのファラフェル・サンドイッチは胃袋の小さな日本人には食べきれないほどの大盛りだ。

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 話は変わるが実はサラーム、さる2月下旬に長く住んだ世田谷区から杉並区の西荻窪に引越した。そして、この日は新居の近くにある善福寺公園で花見をしようと、中央線在住の悪友たちに誘われていた。悪友たちが酒の肴になにを持ってくるのか知らないが、オレはファラフェル・フル・ローデッドで奴らの度肝を抜いてやるまでだ!
 撮影スタッフを待つうちに時刻は11時。時間もないのでさっそくつくり始めよう。ひよこ豆は前夜から鍋に入れ、たっぷりの水に浸けておいた。手間のかかる中東料理はこういった手際が大切。ファラフェルのたねをつくる前に、もっとも時間がかかるピタパンの生地から始めるとしよう。つっても生地を手でこねたりはしない。オレの料理は「両手+マシーン」が基本。使えるものはすべて使い、ときには料理本の制作のため、限られた時間の中で信じられないほどのレパートリーを披露したりもするのだ。

 まずはホームベーカリーに水、強力粉、全粒粉、ふすま、ドライイースト、塩、砂糖、オリーブオイルをぶち込んで、ピザ生地コースにかけてしまおう。あとは「ウィーン、ウィーン」と機械がオレのかわりに生地をこねてくれる。生地こねと一次発酵が終わるまで、ほかの作業を進めることにしよう。

まずはホームベーカリーでピタパン制作。春の日差しに強力粉も喜んでいる!

 次はつけあわせの野菜をまとめてつくってしまう。まずキャベツはたっぷり千切りにする。鍋に酢と水、砂糖、塩、胡椒、ローリエを入れて、火にかけ、沸騰したら、火を止めて、千切りのキャベツをぶちこむ。この際、紫キャベツ、またはビーツの水煮をいっしょに入れると、キャベツ全体が鮮やかな赤紫色に染まる。

これだけでも立派なサラダである。

 にんじんはスライサーでラペにして、たっぷりのレモン汁とオリーブオイルで味をつける。今回はレモン汁のかわりに、先日、中東料理のイベントで徳島市を訪れた際に1升瓶で手に入れた徳島県木頭村産の「木頭柚子一番しぼり」を使った。柚子特有のシャープな酸っぱさと香りが有機栽培にんじんとの相性バッチリだ。

写真右が「木頭柚子一番しぼり」の一升瓶。天然果汁100%の文字に偽りナシの逸品。

 トマト、黄パプリカ、きゅうり、玉ねぎはそれぞれ1センチ角のサイコロ切りにして、レモン汁とオリーブオイル、塩で和える。クミンシードを少々加えると、口の中でほろ苦い清涼感が残るのでオススメだ。

ピタパン越しにまとめて野菜を頬張れるよう具材の大きさは細かく揃えるのがポイント。

 4つ目の野菜はナスのオリーブオイル焼き。薄切りにしたナスを塩水に漬け、アクを抜き、しっかり水を拭き取ってから、たっぷりのオリーブオイルで揚げ焼きにする。これは中までしっかり火を通そう。ナスのトロトロ加減が、モソモソとしたファラフェルとシャキシャキの野菜をつなぐ媒介として働くのだ。ナスのオリーブオイル焼きのないファラフェル・サンドイッチなんてありえない!

ナスが半分まで浸るぐらいの油を使いじっくりと揚げ焼きに。このクリーミーな食感がすべてのたねをひとつにまとめる!

 次はソース。練りごまのペーストである「タヒーニ」にレモン汁をかけ、スプーンでかき混ぜると化学反応を起こして固くなる。そこに水を加え、さらに混ぜ続けると、今度はホイップクリームのようになめらかな状態になる。

ファラフェルだけでなく、焼いた肉や魚にかけても抜群に美味い中東料理の定番ソース!

 これでつけあわせはひと段落。ホームベーカリーの中でピタパンの生地がプク~っと膨れあがってるのを確認したら、いったん生地を取り出し、打ち粉を振って、包丁で10等分にしておこう。切り出した生地は丸くまとめ直し、くっつかないようにたっぷり打ち粉を振り直し、ふたたびホームベーカリーの中に戻す。30分ほど二次発酵させたら、ラップをして寝かせておく。

臨戦態勢となったピタパンの生地。のちのちの膨らみを左右するので計量はしっかりと。

使いづらいのもまた愛おしい?イスラエル産の秘密兵器が登場

 ここでやっとファラフェルのたねに取りかかれる。フードプロセッサーに水を切ったひよこ豆、パセリ、香菜、ブルグル、パン粉、にんにく、クミンパウダー、コリアンダーパウダー、パプリカパウダー、カイエンヌペッパー、胡椒、塩を入れ、レモン汁をしぼり、スイッチオン! 「ガーッ」といこう! 最初のうちはスパイスのオレンジや褐色が目立つが、じっくり混ぜていくと、しだいにパセリや香菜の緑が引き立ってくる。そして、スパイスと豆の混じったイイ香り! このまま食べちゃいたくなるけど、あと少し我慢してくれ!


 ファラフェルはふつうのコロッケと違い卵や衣をつけないので、たねをしっかりと練るのがコツ。軽く練っただけでは揚げた瞬間に鍋の中でポロポロと自壊してしまう。これまで何度ファラフェルづくりに失敗しただろうか? ふ~、若さってやつは……。そうしてたねが練りあがったら、ラップをかけて冷蔵庫でしばらく寝かせるとよい。

フードプロセッサーでしつこいくらい練りあげる。夏場はオーバーヒートに注意!

 そうこうしているうちにピタパンの生地はさらに膨れているはず。めん台の上に置き、めん棒を使ってやさしくそ~っと延ばし、直径18センチの円形にする。生地は発酵が進んだらあまりこねくり回さないのがコツ。でないとうまく膨れなくなってしまうのだ。

めん棒を使ってそ~っと延ばす。真円にならなくともOK。

 かたちが整ったら、今度は余熱した「両面焼き魚グリル」にそっと入れる。これが意外な優れもの! これまで使っていた電気オーブンでは6~7分かかっていたピタパンがなんと3分でプク~っと真ん中から膨れ上がり、ふわふわに焼きあがるのだ! 魚グリルの利点は両面焼きにてひっくり返す必要がないところ。魚グリルといったってパンが焼けないわけではない。料理の基本を学ぶことは、素材を活かす道具のアレンジを学ぶことでもあるのだ。

両面焼き魚グリルでプク~っときれいに膨れあがったピタパン。失敗を恐れず何回でもチャレンジあるのみ。グリルはしっかり余熱しておくのを忘れずに!

 ここでサラームの秘密兵器が登場! ジャーン! イスラエル製の「ファラフェル・スクープ」だ! ファラフェルは手で丸めて、たこ焼きくらいの大きさにしてもよいが、これを使えばスクープですくったアイスクリームのようにすべて同じサイズのファラフェルがつくれるのだ!

ファラフェル・スクープのバネを引いたまま、たねを詰め……
親指を離せば「シュポッ!」と飛び出る!

 これはサラームが現地で購入してきたもので、たぶん日本には未入荷の優れもの! 細いアルミの軸の中にバネが入っていて、すくった生地をバチンと押し出してくれる……はずなのだが、実際のところは軸が細すぎて手で持ちにくいし、バネが重くて指が疲れる! それでも悪友たちの度肝を抜かさねば! と、30分以上かけて8人分のファラフェルを必死こいて生成していたら、右手の親指がガクガクになった。

 これで手間のかかる作業は終了だ。あとは油で揚げるだけ。黄緑色のファラフェルがキツネ色になるまで、じっくりと揚げる。火を通すと、クミンやパセリが一気に香り立つ。食欲をそそるなあ!

たっぷりの油でファラフェルを揚げる。しっかりたねを練ったので崩れない!

ピタパンに舞い落ちる桜の哀愁。サラームまさかの初黒星か?

 調理はこれですべて終了。ここまでで4時間強かかった。できあがったものをすべて並べて記念撮影したあと、試しにひとつサンドイッチをつくって試食してみた! ピタパンを半分に切り、断面に軽くナイフを入れ開き、キャベツの酢漬け、トマトときゅうりのサラダ、にんじんのラペ、ナスのオリーブオイル焼き、そして、ファラフェルを詰め込み、タヒーニソースをたらりと垂らす。お~、野菜がマルチカラーで美しい! ガブっと頬張ると隠し味のクミンシードや木頭の柚子もしっかり効いている。これは美味い! もはや今日の花見の主役はオレに決定だ、ウッシッシ!

我慢できずに試食! 多種の野菜とスパイスが攻めぎあう繊細な味わい!

 それではすべての具材をタッパウェアに詰め直し、ファラフェル・フル・ローデッド、いざ善福寺公園へゆかん!

秘密兵器は分解してお留守番。意外とメンテが大変なのよ……。

 新居から徒歩1分、公園のテーブルの上に持ってきた野菜を並べて、ファラフェル・サンドイッチをひとつひとつ丁寧に詰めて、先乗りしていた悪友たちに手渡す。すると「これうま~い! 野菜もひとつひとつ味が違うし、ピタパンも手づくりなの? すごい手間がかかったでしょう!」と大好評。いやぁ、それほどでもないぜ。
 しめしめ、オレの公園デビューはみんなの予想の遥かに上をいったようだ。

ファラフェル大好評! 桜の季節には色とりどりの野菜を使ったベジ料理が似合うね!

 それにしても、ファラフェルはビールによく合うなあ……と朝からの重労働に脱力していると、べつの友人がでっかくて重そうなビニール袋を脇に抱えて登場。 「いやあ、遅くなりました。マグロの中落ち一尾分と茹でたカメノテを2キロ持ってきました! 中落ちはハマグリのカラでこそげ落としていただきましょう」

マグロの中落ち1尾分ってこんなにデカイのよ!
なにやら宗教画を眺めているかのようなテーブルに……いきすぎたお花見は公園中の注目の的!

 なんで花見にでっかいマグロの中落ち一尾分を持ってくるわけ!? そんなの反則でしょう! さらにオレの大好物のカメノテまで2キロも! 野蛮すぎるほどの動物性たんぱく質攻撃を前に、オレさまの繊細なベジタリアン料理の精気が失われていく! 一所懸命焼いたピタパンもなぜか悲しそう……。

今日の主役はオレじゃなかったの……?
カメノテをくわえて逆噴射! こうなったらヤケクソで楽しむことにするぜ!

 でも、類は友を呼ぶというか、馬鹿げたことを本気でやる友だちたちに囲まれて、楽しいからいいや! 次回はもっと強烈なのつくるぞ~! と、メラメラと料理欲の湧き出るサラームであった。

ピタパンに舞い落ちる花びら。ああ哀愁……。

ピタパン(10枚分)

材料

強力粉:400g/全粒粉:400g/ふすま:30g/ドライイースト:6g/塩:10g/砂糖:15g/オリーブオイル:大さじ2/水:約300cc

つくり方

1)ボウルに材料をすべて入れ、よく練り、生地が耳たぶの固さになりまとまってきたらラップをして暖かい場所に置き発酵させる。ホームベーカリーの生地コースを用いると便利。

2)1時間後、1.5倍に膨れたら、取り出し、包丁で10等分し、ひとつひとつを丸くまとめ、打ち粉を振って、ふたたびボウルやホームベーカリーに入れ、20分さらに発酵させる。

3)生地が大きく膨れたら、めん台に置き、打ち粉をしてめん棒で直径18cmの円形に伸ばす。

4)オーブンを230℃に余熱し、生地を1枚ずつ入れて、3分焼く。真ん中から大きく膨れあがったら成功。これを枚数分繰り返す。

ファラフェル(約8人分)

材料

乾燥ひよこ豆:300g/重曹:小さじ2/にんにく:2粒/パセリ:4枝/香菜:1袋/ブルグル:60g/食パン:2枚/レモン汁:1個分/塩:小さじ2/胡椒:小さじ1/クミンパウダー:小さじ1/コリアンダーパウダー:小さじ2/パプリカ:小さじ1/カイエンヌペッパー:小さじ1/揚げ油:適宜

つくり方

1)ひよこ豆は重曹を溶かしたたっぷりの水(分量外)に漬け、ひと晩おく。翌日、水を切ってフードプロセッサーで細かく砕く。

2)ブルグルは熱湯(分量外)に20分浸してからザルにあげる。

3)1、2と、ほかのすべての材料をフードプロセッサーに入れ、最低5分回して、生地をしっかり練る。30分冷蔵庫で休ませる。

4)3をスプーンや手で直径3~4センチ、厚さ2.5cmのコイン型に丸める。この状態で冷凍保存もできる。

5)フライパンに揚げ油を熱し、180度になったら4を入れる。3~4分で表面がキツネ色になったら裏返し、両面とも焼き色をつける。取り出して、キッチンペーパーの上で油を切る。


(以下のつけあわせのつくり方は本文を参照してください)

キャベツの酢漬け

キャベツ:1/4個:千切り/紫キャベツ:1/8個(千切り)、またはビーツの水煮:50g(ざく切り)/穀物酢:100cc/水:100cc/塩:小さじ1/2/砂糖:大さじ1/黒胡椒粒:小さじ1/ローリエ:1枚

にんじんのラペ

にんじん:4本/レモン汁:1/2個分/オリーブオイル:大さじ2/塩:少々

トマトときゅうりの角切りサラダ

完熟トマト:1個(1センチの角切り)/黄パプリカ:1/2個/きゅうり:2本(皮をむき、1センチの角切り)/玉ねぎ:1/2個(皮をむき、1センチの角切り)/レモン汁:1/2個分/塩:少々/オリーブオイル:大さじ2/クミンシード:小さじ1

ナスのオリーブオイル焼き

なす:6本/塩:適宜/オリーブオイル:50cc

タヒーニソース

タヒーニ:50g/レモン汁:1/2個分/塩:少々/水:大さじ2

サラーム海上Salam Unagami
1967年群馬県生まれ。中東料理研究家/音楽ライター/DJ。中東やインドを定期的に旅し、現地の料理や音楽、文化をフィールドワークし続ける。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』(双葉文庫)、『21世紀中東音楽ジャーナル』(アルテスパブリッシング)ほか。朝日カルチャーセンター新宿の講師、NHK FM「音楽遊覧飛行エキゾチッククルーズ」ではナビゲーターを務める。
www.chez-salam.com

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